市橋有里(元オリンピックマラソンランナー)にとっての走ること・食べること vol.1
マラソン日本代表選手として、セビリア世界陸上で銀メダルを獲得し、シドニーオリンピックにも出場した、現ランニングアドバイザー兼アスリートフードマイスターとして大活躍中の市橋有里さん。主に「走ること・食べること」について、現役時代を振り返りながら和やかな雰囲気の中でトークセッションが行われた。
トークセッションでは、オリンピック日本代表選手等のトップアスリートを手掛けるトレーナーの中野ジェームズ修一氏(画像:左)をホスト役として迎え、クリエイティブディレクターの小松裕行氏(画像:中央)が進行役を務めた。
「シドニーオリンピックを振り返って」
市橋:シドニーオリンピックは、2000年だから17年も前ですね Qちゃん(高橋尚子さん)のゴールが凄く印象的でしたよね。
小松:当時の中継、CMが流れている時に凄いシーンがありました。市橋さんが給水でペットボトルを取った時に高橋さんがスパートをし、市橋さんも遅れないためにボトルを投げ捨てて高橋さんを追いかけましたよね。その時にCMが入り、放送されませんでしたが(笑)。
市橋:高橋さん、山口さん、私の3人が日本代表として出場しました。走行中に高橋さんが山口さんから受け取ったボトルを私に渡してくれて、私はライバル選手でもある日本チームの選手から貰ったので凄く嬉しくなりグッときた瞬間に、高橋さんがスパートをかけたので、慌てて水を飲まずにボトルを捨てて追いかけましたね(笑)。高橋さんは、山口さんから貰って後輩の私に渡すのが凄く嬉しくて、「このタイミングで行こう!」って言っていました。
小松:高橋さんには、何kmまで追走していたんですか。
市橋:27kmまででしたね。
中野:それ以降は、どうだったんですか。
市橋:私は、登り坂が苦手でして、Qちゃんのスパートに追い付こうとしていたら、走りながら前太腿が筋肉痛になるくらい辛かったんですよね。筋力がなかったんでしょうね。
小松:もしその時に、中野さんが市橋さんのフィジカルコーチだったら、どのようなトレーニングをしていましたか。
中野:色々アドバイスをしたかったんですが、当時は、女子選手に男性が近づいてはいけないという厳しいルールがあるチームもありましたからね(笑)。
市橋:私も話しかけるなオーラを出していましたからね(笑)。
市橋さんが現役時代に、メディアに対してかなり苦労したという話にもなった。選手達は限界寸前で走っているので、視界の中に突然カメラマンが入ってくると集中力が途切れてしまったり、レース中に前を走る中継車の排気ガスが顔にかかってきた時も何とも言えなかったとのことである。選手でないと分からない、味わえない貴重な話ばかりとなった。
「アスリートフードマイスター」
小松:市橋さん、アスリートフードマイスターは、どんな資格となりますか。
市橋:スポーツをする人が最大限にパフォ―マンスを発揮するために、食の面からアプローチをしていく資格となります。私は、現役時代から自炊をしたり料理作りが好きでして、アスリートが何を食べれば強くなれるのかを常に考えていますね。
競技や年代により食べたら良いものも変わってくるので、そこは中野さんが良く知っています。
中野:若い時は、少量のタンパク質を摂っても筋肉を合成する反応が起きるんですが、年齢が上がってくると、ある程度の量のタンパク質が必要となってきますね。年齢が上がれば上がるほど、肉を食べる量を増やさないと筋肉量が減ってしまうんですよね。日本人は粗食が健康的みたいなことを言っていますけれど、肉を食べている人の方が健康的ですよね。
市橋:中野さんと以前お話した時に、牛乳の話題になりましたよね。
中野:はい、そうだね。
小松:中野さんが青山学院大学駅伝部をサポートするようになってから、毎日できるだけ牛乳を飲むようにアドバイスしたんですよね。
中野:牛乳が牛の乳だから悪いと言う人もいますが、先日、スポーツ栄養士学会でも、「牛乳を摂ってはいけないと」と主張している専門家はだれもいませんでした。それどころか「アスリートにとってのバランスの良い食事」の中に牛乳などの乳製品は必ず含まれています。もし牛乳が悪であるならば、国や各学会でも勧告がでるはずですよね。
学生たちは寮生活で、激しい練習をしているので手軽に購入出来て栄養価の高いモノが必要なので、牛乳を飲んでもらうようにしています。牛乳には、カルシウムやタンパク質も入っていますからね。
市橋:小学生の時は牛乳が嫌いでしたが、中学に入ってから毎食、牛乳を飲んだりヨーグルトを食べて乳製品を採るようにしていましたね。
「アスリートフードマイスターとしてマラソン選手をサポートする際に、どんなメニューを考えるか。」
市橋:フルマラソン出場が決まると、3ヶ月前から練習を始めるので、以下のような食事のプログラムを考えますよね。
①始めの1ヶ月は、体脂肪を落とすメニューを
②2ヶ月目は、筋肉をしっかり付けられるように
③3ヶ月目は、炭水化物を多めに摂ってグリコーゲンをしっかり体内に蓄えられるように
小松:具体的に何を食べてもらいますか。
市橋:かなり激しい練習となるので、低脂肪で高タンパクなものですね。
小松:私の場合は、走ると腹が減るので沢山食べてしまうんですよね。どうやって体脂肪を落とすのでしょうか。
中野:そこを皆さん勘違いしていますが、カロリーが多いから太るわけではないんですよね。高カロリーのモノでも栄養価の高いモノであれば、過剰に摂らない限り太りません。例えば、お菓子は高カロリーですが、栄養価はほとんどありません。お菓子の500キロカロリーと定食の500キロカロリーでは栄養価が違い、定食では太らないということなんですよね。
栄養価が高いモノをしっかりと食べれば、そんなに太ることはありません。栄養価が低くバランスが悪いモノを食べるから、身体は脂肪を蓄積し筋肉量も減ってしまいます。しっかりと食べてない人は見掛けが細いけれど、体脂肪が高いということがよくありますよね。カロリーだけで考えるのではなく、栄養価と共に考えてほしいですよね。
市橋:あとは、ビタミンBなど代謝を活発にしてくれるものを食べないと、エネルギーを採っても解消してくれないので、しっかり採るべきですよね。夏場でしたら鉄分もしっかりと。
小松:シドニーオリンピックの時は、どのような食事をしていましたか。
市橋:オリンピック前にニュージーランドで合宿をしていた時に、赤身のお肉をオリーブオイルでマリネして焼いて食べていました。良質のオイルを摂ることを心がけていましたが、マリネすると脂の少ないお肉もパサパサしないんです。
Qちゃんは、背負うものが違いますし、栄養士やトレーナーを付けていましたが、私は自炊をし、マッサージも自分でやり、サロンパスを貼っていましたね。
Vol.2へ続く。
【取材協力】
TRIPLE R
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市橋有里
https://ameblo.jp/ariblo-ichihashi/
中野ジェームズ修一
http://www.sport-motivation.com/
【著者・写真】
佐久間秀実